料理の仕事をしているとお話すると、
「やっぱり将来は自分のお店を持ちたいの?」とよく聞かれます。
この質問にいつも違和感を感じていました。
なぜなら、自分でお店を持ちたいと考えたことは一回もなかったから。
そもそもフリーランスとして働きたいと思ったきっかけも「自由度を増やすため」だったので、時間や場所が拘束されるお店を持つということは最初から視野に入っていませんでした。
食の世界での成功の定義は自分の店を持つことなのか…?
そこを目指していない私は意識が低いのか…?
…こういうことを考える度に、もともとない自信がもっとなくなっていきました。
ただ、ある時気付いたことが「料理人」と「料理家」の違い。
これは、似ているようで全然違う職業だということでした。
求められているものも、同じようで全然違う。
今回はこの2つの違いを解説していきたいと思います。
料理人の仕事とは

私が考える、料理人に求められることはこちら。
・いつでもそこに(お店に)行けば同じ味が食べられる
・普段家では食べられない本格的な味を提供できる
・ひと口食べた瞬間に「おいしい!」と思わせる味付け
どこかレストランに行きたいと思う時、自分が作れるものをわざわざ食べに行かないですよね。
ちょっとした「特別感」を求めてお店を選ぶと思います。
あとは、空間そのものに非日常を感じられる場所ということも大切ですよね。
料理家の仕事とは

一方料理家に求められることは何でしょうか。
・家庭にある食材で、且つ作りやすい再現性のある料理
・誰が作っても同じ味になるレシピ
・家族の健康をサポートできる食事の提案
・華やかさはなくともホッとする味付け
「おもてなし」や、「フレンチレストランのような◯◯」というテーマの料理だとしても、あくまでも自宅で楽しめる範囲の料理を提案することが求められます。
あと、重要なのが誰が作っても同じ味に仕上がるレシピ制作、という再現性の部分。
シェフがお店で作るレシピを教えてもらっても、自宅にない食材が使われていたり、火入れの技術がなかったり…なかなか同じ味には仕上がらないものです。
キッチンのスペックも違うはず。
家で食べる食事はあくまでも「日常」。
毎日食べ続けても健康でいられる、という部分も大切だと思います。
自分の「得意」を整理する
この2つの違いを自分の中で整理できるようになってから、仕事を進めやすくなりました。
「食の仕事」とひと括りに思っている方も多いので、ものすごく広い範囲でお仕事のご依頼が来ます。
(フリーランスとして幅広いお仕事をいただけるって本当にありがたいのですが!)
昔、カフェのメニュー開発のご依頼を受けたことがあるのですが、お店で出すメニューだと原価計算やオペレーションなども考えなくてはいけません。
家で家族4人分のご飯を作るのと、カフェでオーダーが入る度に何度も同じメニューを作るスキルは別物。
もちろん、料理家さんの中には飲食店で経験を積んでいる方もいらっしゃるので、そういうことが得意な方もいると思います。
それ以来、飲食店のメニュー開発に関しては、アドバイザーとして入ることはありますが、それ以外はお断りするようになりました。
または、「こんなことはできますが(できることの中で最大限の提案)、これはお受けできません(できないことの線引きを正直に伝える)」を事前にしっかり伝えるだけで、その後の仕事がとても進めやすくなります。
自分の仕事の中でも、できること・できないことを整理しておく。
何でも引き受けて、結局満足いただける内容に仕上がらなかったというのは、働く上で信用を失うことになります。
とは言っても、何でも一度やってみないと整理するのも難しいので、最初のうちにとにかく色んな仕事を受けてみるのも必要です。
…こんなに大口叩いていますが、私も何度も失敗しているので(笑)
狭い範囲でも自分の得意を最大限に生かしてお仕事を受けることもフリーランスの料理家にとっては必要なことだと思います。
一歩ずつ、自分の得意を見極めていきたいですね。